誰も乗っていない無人の船「オブラ・ディン号」が港に帰着するところから、この物語は始まります。プレイヤーの役割は、東インド会社ロンドン本社所属の「保険調査官」。目的はただ一つ、この船で一体何が起きたのかを調査し、乗組員・乗客全員の「身元」と「死因」を特定することです。
本作を語る上で外せないのは、これまでに遊んできたどのゲームとも「一味も二味も違う」圧倒的な異質さと、手加減なしの硬派な謎解き体験です。
プレイヤーの「観察眼」だけが頼りのソリッドな世界
本作には、現代の親切なゲームによくある「次の目的地を示すマーカー」や「キャラクターが教えてくれる直接的なヒント」は一切ありません。手元にあるのは、死の瞬間を追体験できる懐中時計と、乗客名簿、そしてスケッチだけ。
最初は誰が誰だか全く分かりません。しかし、死の瞬間に聞こえる叫び声、飛び交う言葉の「訛り(言語)」、服装、人間関係の距離感、さらにはハンモックの番号に至るまで、画面に映るすべての情報が重要な手掛かりになります。
作中で交わされるわずかなセリフが何語なのか、必死に耳を澄ませて言語の壁から身元を絞り込もうとするような、泥臭くも極上に知的なアプローチが求められるのです。
攻略を見ずに挑んだ、20時間以上の濃密な脳汁体験
私自身、本作は「絶対にノーヒントでクリアする」と心に決め、じっくりと時間をかけて挑みました。結果、クリアまでに要した時間は20時間以上。
途中で言葉のニュアンスを調べようとして、不意に視界に入った情報から図らずも司厨手の一人の身元を知ってしまうという、自力攻略ならではの「悔しいハプニング」もありました。しかし、それ以外の50人以上の運命は、すべて自分の頭で考え、論理的に導き出しました。
本作の素晴らしいところは、あてずっぽうの総当たりを許さない「3人の身元と死因が正解すると情報が確定する」システムです。
複雑に絡み合った糸がカチッと解け、ノートの文字が書き換わった瞬間の脳汁が溢れ出るような快感は、他のゲームでは絶対に味わえません。
総評:ゲームに「本気の思考」を求めるすべての人へ
世の中にミステリーゲームは数あれど、ここまでプレイヤーの知性を信頼し、そして剥き出しのロジックだけで挑ませてくれるゲームは他に知りません。
20時間以上かけてオブラ・ディン号の航海を終えたとき、押し寄せたのは圧倒的な達成感と、「もうこの極上の初見プレイを二度と味わえない」という寂しさでした。
もしあなたが、
- ありきたりなゲームに退屈している
- 自分の観察力と論理的思考力を極限まで試したい
- 攻略サイトを見ずに、徹底的に一つの謎と対峙したい
そう思うなら、今すぐオブラ・ディン号へ乗船してください。あの白黒の世界には、あなたを狂わせるほど美しい謎が待っています。

無天童子